鉄の化石と彼女

Suite KooDoo
#03 〔10某〕


2012年11月26日 午前中

その日も過疎Bでぼんやりしていたら、いきなり、見ず知らずの人からwisが来た。

送ってきたのは、レイズタイガーのような青と黄緑のカラーリングの服がよく似合うお姉さんだった。

話を聞いてみると、チームへの勧誘だった。

「チームでは毎日走破やってる人がいるから、一緒に金が稼げる」という言葉に釣られた。

走破:走破演習。タイムアタッククエストで、NPCオーダーの一つとしてこれらをSランククリアするクエストがあり、それで貰えるメセタは当時、無課金の金策のメインであった

当時はまだ走破はソロでは出来なかったし、募集部屋に入ったこともなく入る気力も無い自分にとって、このことは大変魅力的だった。

どうしようか一晩考えたが、入ってみることにした。

当時で、多いときのログインが15人ぐらいのチームだった。

そんな見ず知らずの人間を勧誘するぐらい、ゆるくてまとまりのないチームだった。


早速、チームの人と走破をした。ほぼ初めての4人PTで慌てた。

他の人が死んだのがわからなくて、放っていってしまったりしていた。

そういえば他人のHPゲージなんて、キャラの頭の上のしか見てなかったな…

「起こして」という言葉の意味すら、理解できていなかった。

けれど、走破は他の人達の方が、仕掛けすらあんまり把握してなかったみたいで、いきなり「できる人が来た!」というふうになっていた。謎すぎた。

ああなんか、場違いな所に入ってきてしまったなあ…と思った。


はじめてのチーム、10某。

―光導に合わせて、"私"はその集団の中で自分の事を、おれ、と呼び始めた。


最初はものすごく緊張したけれど、徐々に打ち解けて。

久しぶりの他人とのチャットは、とても、楽しいものだった。


ちなみに、勧誘してくれたのは、姉様。

だからもう、一年以上の付き合いになるのだね。


#04 〔彼女/1〕

2012年12月

そんな10某の中で、一人だけ一日中ひたすら潜っている人が居た。

おれも大体一日中居るからか、スタンスが合っていたのか、自然と、二人で一緒するようになっていた。

おれの初めての、オンラインでの仲間だった。

彼女は当時、チームで唯一のヤスミノコフ9kM持ちであり、そらをとぶガンナーであった。

ガンナー実装当時はスタイリッシュロールとNを目押しで連続させることでガンナーは敵の攻撃が届かない遥かな高高度まで跳ぶことができ、その位置をキープしながらPPが切れるまで一方的に攻撃をし続けることができた

自分もガンナーやってたけれども、彼女の方が段違いに上手かった。

2人でマイザー周回して一匹ずつ処理勝負しても、勝てなかった記憶だけが残っている。


ログインしたら同じブロックに行き、無言でPT申請する/されるのが当たり前になってきた頃、彼女が、一人のキャストをチームに勧誘した。

彼女はいつも一人で居て、他の人と話している素振りもなかったので、彼女が誰かを、しかもこんなチームに勧誘?と、びっくりした記憶がある。

そして以後は、おれと彼女と、そのキャスト、三人でずっと居た、気がする。

(あんなに三人で居たのに、三人で写っているSSが一枚も無いのが、本当に心残りだ。)


おれもそのキャストも、積極的になにか掘るタイプではなかったので、大体、走破か、彼女の掘りたいものについていくか、マイザー周回か、だった。

あと一人は、チーム内で募集したり、野良で募集したり。

キャストが二人分のwbを賄い、おれと彼女が火力になる。それでほぼ片付いていた。


気がつくとおれは、日々の走破や周回で、ソロの頃とは比べ物にならない位、メセタを稼いでいた。装備を整え、火力も上がっていった。

一方の彼女は、仕様変更でそらを飛べなくなったガンナーをしなくなり、他の職のレベルをあげていくようになった。


#05 〔彼女/2〕
2012年12月12日

この日から、ダークファルス緊急が実装された。

彼女もおれも、寝る間も惜しんでDF参戦を繰り返していた。

クリスマスと年末年始はDF祭りで。期間中は9割ぐらい緊急がDFだった。

その時は、オンしたまま音量大きくして(BGMはOFF)、チームルームで仮眠。DFが来たら彼女が音付きSAを連打してくれて、それで起きたりしていた。

折角おいしいワインや肉を用意したのに、DFのおかげで丸つぶれな、そんな年末年始であった。

(これを教訓に、先の年末は、引きこもり用の食料以外はほぼ購入しなかった。…正解だった。)

正月のチーム画像。

(彼女は「年始の挨拶面倒だから」と、年越し前に落ちてた。)

 

2013年1月中旬

年末年始が終わって一段落したあたりで、彼女がなんとなく燃え尽きたようになっていた。

オンしても反応がないことが多くなっていた。

心配していたけれども、何も出来なかった。

以前から彼女は表面的には明るかったけれど、繊細で傷つきやすくて、夜中にはどんどん言葉が沈んでいってることが多かった。

おれも似たようなタイプだったからか、それをどうにかすることも出来ず、更に沈ませるような、沈んでいくようなことしか言うことが出来なくて。


本当は、彼女に色んな恩があるからこそ、それを返したかった。

けれど、できなかった。

そうして、彼女は来なくなってしまった。

誰にも、何も言わずに。